Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第73回の目次
● ロンドンっ子の食べ物
● 今年の冬

● ロンドンっ子の食べ物

ご無沙汰しました。前回号での予告とは内容を異なり、今回は食べ物について書いてみたいと思います。特に、わたしにとっては非常に馴染みの深いロンドン名物について扱っていきます。そもそも、きっかけは昨年15年ぶりにイギリスに行ったという日本の友人と、ウナギの話で盛り上がってしまったからです。今回、ジェリード・イールズ、パイ・アンド・マッシュ、ロンドン・チーズケーキの3つを取り上げてみたいと思います。

☆ジェリード・イールズ(Jellied eels)

かつて、テムズ川でウナギが取れた頃、ウナギ料理は、貧しいイーストエンドの庶民にとって、安くて、たんぱく質たっぷりの栄養価の高い食べ物でした。ウナギと言っても、日本の鰻よりはずっと太く大きいものです。水質汚染により、1960年にウナギはテムズ川から姿を消したそうですが、その後、浄化運動のおかげで、再びテムズ川にウナギが住むようになりました。が、過去5年間でテムズ川のウナギの数は98%減少し、現在は50匹と絶滅寸前ということです。現在では、ジェリード・イールズの材料のウナギはアイルランドやオランダなどからの輸入がほとんどとなっています。

ジェリード・イールズとは、輪状にぶつ切りにしたウナギを魚のだしとナツメグを含む各種スパイスおよびレモン汁で煮た後冷まし、煮汁がゼリー状になった状態のものを指します。かつては、ウナギから出たコラーゲンだけで十分固まったそうですが、最近のウナギはたんぱく質が少なく、煮汁にゼラチンを加えている例も少なくないようです。「冷たいままでも、あるいは温めても食される」と書かれていることがありますが、個人的には温めて食べるということが想像がつきません。

ジェリード・イールズには、チリビネガー(チリの入った酢)をかけて食べるのが伝統的ですが、我が家ではそのほかの魚介類同様、コショウとモルト酢をかけて食します。かつてロンドンに100軒以上あったと言われる「パイ・アンド・マッシュ・ショップ」で食べることができますが、近年人気があるのは屋台のほうでしょう。もっとも有名なのが、タビー・アイザック(Tubby Isaac)です。1919年設立のこの会社は、現在オールドゲートのペチコートレーンマーケットとウォルサムストウで営業しています。イギリスでは週末になると、パブの前にザルガイなどの貝類やシーフードを売る屋台が出ます。このような屋台で、"A bowl of jellied eels, please"と注文すると、大きな洗面器に入ったウナギを小さな発泡スチロールの器に入れて渡してくれます。これに、用意されたチリビネガー、あるいはモルト酢にコショウなどをかけて、屋台の椅子に座って食べるか、歩きながら食べます。また、ロンドン近辺でしたら、魚屋で売っているところもあります。(未確認情報ですが、一部のスーパーマーケットの鮮魚コーナーで売っているという話も聞きました。)

肝心のお味のほうですが、好きな人と嫌いな人とで大きく分かれるようです。わたしの知人の中に、ちゃきちゃきのイーストエンダーがいますが、彼女はジェリード・イールと聞いただけで、気持ちが悪くなるそうです。私個人としては、好きなほうです。イギリスに帰るたびに食べたいと思いますが、近くの町の魚屋が閉店してしまい、最近では簡単に手に入れることができないのが残念です。

ジェリード・イールズ

☆パイ・アンド・マッシュ(Pie and mash)

これもイーストエンダーにとって伝統の食べ物です。昔はパイの中身にはウナギが使われ、イールパイとして親しまれていましたが、ウナギが高価なものになってからは、牛挽き肉に取って替わられました。これにマッシュポテトを添え、リカー(名前とは裏腹に、アルコール分はゼロ)と呼ばれるパセリーソースをかけていただきます。イギリスからスペインに飛行機で持って帰ってきてくれたロンドンっ子の友人の努力のおかげで、一度だけ食したことがありますが、感動的においしいというものではありませんでした。もともと、貧しいロンドンの労働者階級の人たちの食べ物だったことを考えれば、それも当然かもしれません(それとも期待が大きかったせい?)。それでも、上のジェリード・イールズとともに、スペインのイギリス人経営のレストランで、ロンドンスペシャルとして売られているところを見ると、ファンは少なくないのでしょう。

 

パイ・アンド・マッシュは、上記のように特化した店で食べることができます。こうしたパイ・アンド・マッシュショップは、タイル張りの壁に、大理石の床・テーブル・カウンターとビクトリア時代の雰囲気をそのまま残しているところが多く見られます。店内はレストランというよりは食堂といった感じで、簡素で清潔が売り物です。もっとも有名なのは、1902年創業の老舗・マンジーズ(Manzes)でしょう。しばしばテレビでも取り上げられています。こうしたパイ・アンド・マッシュショップでは、スチュード・イール(ウナギの煮込み)も食べることができ、これもロンドン名物の一つです。ちなみに、マンジーズのタワーブリッジ店までわざわざ出向いてパイ・アンド・マッシュとウナギ(スチュード・イール)を食べてきた日本の友人は、お味のほうには一切触れていませんでした。さすがにパイ・アンド・マッシュを平らげた後、ウナギまでは食べられず、ウナギの代金全額払うが1切れしかいらないと言ったところ、1切れだけ無料で味見をさせてくれたそうです。

☆ロンドン・チーズケーキ(London cheesecake)

わたしの長年の疑問は、「なぜチーズが入っていないのに、チーズケーキと呼ばれるのか?」というものでした。その後、この「チーズケーキ」は、特に「ロンドン・チーズケーキ」と呼ばれていることを発見しました。この「チーズケーキ」は、ロンドンおよびその近郊(わたしの知る範囲では、ケント州でも)のパン屋で売られているもので、正方形のパフペースト(ミルフィーユなどに使うフワフワのパイ生地)の中にほんの少しのジャムが入っており、上にアイシングシュガーをかけ、紐状にすりおろしたココナッツを乗せたものです。

 

実は、ロンドン・チーズケーキの定義には、いまだに疑問の残るところです。イギリスでもっともトレンディーでセクシーなテレビシェフのナイジェラ・ローソンのレシピを見ると、わたしの持っているアメリカ原産のレシピとまったく同じなのでした。つまり、くだいたビスケットの土台の上に、クリームチーズと卵を混ぜたものを流し込んで焼き、サワークリームのトッピングをのせて、さらに焼いたものです。ググるとこのレシピが真っ先に出てくるため、同じ疑問を持った人は非常に多いようです。が、その後の調査の結果、「ロンドン・チーズケーキ」とは、上記のようなココナッツ入りのものという結論にわたしは達しました。

調査中、「なぜチーズが含まれていないに、チーズケーキと呼ばれるのか?」というわたしの長年の疑問そのものの質問にインターネットで出会い、わくわくしながら、答えの欄を見たら、「クリームチーズが入っているから!(いかにも馬鹿にした口調で)」と言う、とんだ見当違いの回答が投稿されていました。この人は明らかにナイジェラ・ローソン版のチーズケーキと混同しているようです。さらに調査を進めると、わずかに答えらしく思われるものとしては、昔は、(たぶんジャムの代わりに)チーズの原料である凝乳を使ったものが中に入っていたからではないかということでした。ロンドンっ子のことですから、何かがなまって「チーズケーキ」になったとか、外国から入ってきたもので、発音ができないため「チーズケーキ」になったとか(なにしろ、ロンドンっ子にかかると、「インファンタ・デ・カスティーリャ」が「エレファント・アンド・カースル」になってしまうのですから)ということも考えられます。これは永遠の謎となるかもしれません。

ロンドンとケント州に住んだわたしにとっては、このチーズケーキはかなりなじみの深いものなのですが、どうやらイングランド南部以外では、なかなか手に入りにくいもののようです。それゆえに、特に「ロンドン・チーズケーキ」と呼ばれることが多いのかもしれません。

● 今年の冬

今年のイギリスは厳冬のようです。クリスマス前、1月初めと大雪に見舞われ、現在も寒波が訪れていて、各地で雪が降っています。前回の雪では、空も陸も交通の便が大混乱。雪のための学校閉鎖も続出、通勤が不可能になったり、日常生活にも支障がきたされました。ここで活躍したのが、普段は反エコと悪者扱いの四駆自動車。雪で閉ざされた村を救助するため、地元のラジオを使って、四駆自動車出動が呼びかけられたりしました。悪役から救世主へと一時的な格上げです。

現在わたしはスペインに滞在中ですが、11月のうちに、配管工を手配して、イギリスのトレーラーハウスの水を落とし、水道栓を閉めてもらったので、今年は水道管破裂の心配は無し。今度イギリスに戻るときには、昨年のような騒動はないでしょう。やっぱり早めに手をうっておいてよかった。この後、わたしは3月20日にスペインからフランスに移動し、フランスに1週間ほど滞在したあと、3月末にイギリスに移動する予定です。そして、4月には2年ぶりに日本に帰国します。

最後までお読みくださって、どうもありがとうございました。それでは、次号でまたお会いいたしましょう。

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