不思議のペドロランド

第9号 (12月31日発行)

★ はじめに

2ヶ月ぶりの発行になってしまいました。読者の方(つまり、わたしの友人の1人ということですが)から、スペインのクリスマスについて書いてほしいというリクエストをいただきました。このような季節ものの話題は、クリスマス前にお届けすべきだったのでしょうが、どうしてもクリスマス前には原稿が間に合いませんでした。ちょっと間が抜けてしまいましたが、もう1度クリスマス気分にひたってください。もっとも、スペインやイギリスをはじめ、ヨーロッパの国々では、クリスマスの12日間と言って、1月6日までをクリスマスとするところが多いようです。

スペインのクリスマスといっても、スペイン人の知り合いがいないのであまり実態はわかりません。ペドロランドの特色を出すためにも、ここではちょっと範囲を広げて、ドイツやオランダなど北ヨーロッパの国々のクリスマスにも触れてみたいと思います。というわけで、近所の人たちからの情報や地元の英字新聞「コスタブランカ・ニュース」の昨年および今年のクリスマス特集記事を元に、ヨーロッパのクリスマスをご紹介して行くことにします。

★ ペドロランドのクリスマス

12月が近づくと、ペドロランドの住民の顔ぶれが変わってくる。1年のうちの半分をペドロランドで過ごす渡り鳥住民は、この時期に母国に帰ることが多い。隣りのアリーとトーシュは、12月5日の「サンタクラウスの日」(St Klaasと書くらしい。)に孫の近くにいてあげたいからと言って11月終わりにオランダに帰って行った。向かいのヘルムートとアナは、「ドイツのクリスマスとその前はとても美しい。」と言って、やはり11月末に帰って行った。クリスマスは北ヨーロッパのものである。暗くて寒くてみじめな気候だからこそ、クリスマスを楽しみにする気分が盛り上がるのである。スペインのクリスマスは北ヨーロッパの人たちにとってはもの足りない。

スペインのクリスマスは、宗教色が濃く、かなり地味である。もともと、キリスト生誕というキリスト教の行事が、キリスト教到来以前にその土地で信じられていた土着宗教に結びついたために、クリスマスは大きなお祭りとなった。イギリスの場合は、冬至を境にだんだんに日が長くなって行くことを祝ったドルイド教の祭りが地盤になっている。厳しい冬が峠を越したことを祝う土着宗教の祭りがなければ、クリスマスはスペインのようにキリスト教一色になるわけである。

クリスマスの飾りも、スペインではキリスト誕生風景のミニチュアなど、宗教的テーマに沿ったものが多い。赤と緑を基調に金銀きらめく、イギリスの派手な飾つけとはだいぶ異なる。12月になると、ペドロランドの近くの町にも、教会前広場に大きなクリスマスの飾りつけが出現するが、これもキリスト生誕前後の聖書の逸話を模型を使って説明した、たいへん宗教的なものである。教会のステンドグラスは、文字の読めない一般庶民に聖書を理解させるために発案されたというが、このクリスマスの飾りも似たような発想によるのかもしれない。

スペインでは、クリスマスツリーもかつては見られなかった。針葉樹の多い北ヨーロッパの習慣であろう。イギリスに入ってきたのも、19世紀にビクトリア女王のところにドイツ人のアルバート公が婿入りしてきてからであると言う。しかし、今年は近所の花屋でも電光クリスマスツリーを売り出し始め、近所のスペイン人もクリスマスツリーを飾り始めた。スペインも、この辺りでは確実に国際化しつつある。もっとも、イギリスのように路傍や園芸センターで生木を売るところまでは行っていないようである。圧倒的に人工ツリーが多い。

スペインには、かつてはサンタクロースもいなかった。スペインの子供たちにプレゼントを配るのは東方の3博士である。1月6日のEpiphany(顕現日、公現日)と呼ばれる日に3賢人はやって来る。救世主の誕生を知った東方の3博士がこの日にベツレヘムを訪れ、キリストに贈り物を捧げたことに由来する。町や村によっては、3博士は昼間に鳴り物入りでやって来ることもあるそうだ。この3博士のパレードの後、子供たちは町役場に集まり、それぞれプレゼントを受け取るということである。不思議なことに東方からやってきたこの博士たちは、ひとりひとりの子供が何をほしいのかちゃんと知っている。もちろん、自宅まで3博士が配達してくれることもある。この場合は夜ひっそりとやってくる。1月6日の前夜、スペインの子供たちは戸口にわらと水を用意しておくと言う。遠方はるばるやってきた3賢人のラクダたちを労わるためだそうだ。12月25日の前夜、翌朝早くにやってくるサンタクロースのためにミンスパイとブランデー(あるいはシェリーなど)を、トナカイのためにニンジンを用意しておくイギリスの子供たちの習慣によく似ている。

サンタクロースがオランダにやってくるのはずっと早い。12月5日の夜である。お菓子を子供たちの靴の中に置いていくのだそうだ。不思議なことに、お隣りのベルギーにサンタクロースがやってくるのは、翌日の6日だということである。この日は、聖ニコラスの日(セント・ニコラスがなまってサンタクロースになったと言う)にあたり、子供たちはプレゼントをもらう。クリスマスの朝にも、ちょっとしたプレゼントのやり取りが家族の間であるそうだ。プレゼントはツリーの下か暖炉の近くに下げた長靴下の中に置かれる。

ドイツでは、Christkind(クリスマスの子供)がプレゼントを持ってくると伝統的に信じられていたそうである。サンタクロースと違い、子供だけあって夜間労働はしない。やってくるのは、12月24日の午後だそうである。もっとも、最近では、サンタクロース(Der Weihnachtsmann)がプレゼントを持ってくるという説も広まっているようだ。この場合も、24日の夕方近く、家族がみんなで教会の集まりに出かけた後に、プレゼントをツリーの下に置いて行く。

これが伝統的なヨーロッパのクリスマスプレゼントの習慣であるが、ボーダーレス社会が進むにつれて、スペインやドイツにもサンタクロースが出現するようになった。ペドロランドのあるコスタブランカ地方では、スペイン人の子供も12月25日にプレゼントをもらう習慣ができつつあるということである。同級生である、外国人の子供たちが12月24日や25日にプレゼントをもらうのに、彼らがもらえないのは気の毒だということらしい。もちろん、スペインの伝統に則って1月6日にもプレゼントをもらう。同様の理由で、スペインに住む外国人の子供は、12月24日か25日(親の母国の習慣による)と1月6日の両方にプレゼントをもらうようになりつつあると言うことだ。

子供に有利な習慣はすぐに定着するものである。今年のハロウィーンには、近所のスペイン人の子供たちに「ハロウィーン!」と言って追いかけられた。もちろん、ハロウィーンはスペインの習慣ではない。ケルト民族に信仰されていたドルイド教の祭りに由来する。これがアメリカに渡り、イギリスにも逆輸入されて、ヨーロッパ中に広がりつつある。よきキリスト教徒のスペイン人とっては、翌11月1日の万聖節のほうが意味の深い祝日である。(これについては、後日詳しく触れたい。)子供に得になるような習慣というのは、商業主義の強力な後押しがあるため、すぐに広がる。来年のハロウィーンには、きっとスペイン人の子供たちが「トリック・オア・トリート」と言って、各家のドアを叩くようになるだろう。

イギリスでは、クリスマスのクライマックスは12月25日の昼食である。午後1時か2時頃から七面鳥のローストをいただく。これに対して、スペインではクリスマスイブの夜にご馳走を食べる。コスタブランカ地方の伝統的なクリスマスの食べ物は海老だそうだ。鮭やロブスター、海老などのシーフードを皮切りには、たいへん豪華な食事を時間をかけてたっぷりと食べる。そして、夜12時に教会のミサに出かける。翌25日の昼食(午後2時くらいから)にまたご馳走を食べる家庭も多い。スペインのクリスマスとはご馳走を食べることである。クリスマスになると出現する伝統菓子というのもある。トゥロンと呼ばれるアーモンドを糖蜜で固めたものや、ポルボロンあるいはマンテカードと呼ばれる、口の中でほろりと溶ける味も舌触りもたいへん繊細な菓子などである。(ポルボロンは日本でも手に入るそうである。詳しくは、j-flogさんの食べ物追及サイト「エスニック・パラダイス」の下記のページを参照されたい。)

http://www.luckyfrog.com/ethpara/diary/020117.html

ヨーロッパ大陸の多くの国では、スペインのようにクリスマスイブにご馳走を食べるところが多い。ドイツでは、24日の晩に塩漬けの豚肉にザワークラウトという伝統料理をどっさりと食べるそうである。25日に魚(鯉)かガチョウを食べる習慣もあるらしい。

スペインでは、24日の夜にはすべての店やレストランも閉まり、家族が集まって家で食事をするという。ペドロランド周辺のレストランは、クリスマスが書き入れ時だ。クリスマス特別メニューを用意して、早くから予約を取り始める。これらのレストランはイギリス人を主とした外国人客を相手にしたところが多いが(メニューも七面鳥のローストというところが多い)、最近はスペイン人もレストランでクリスマスの食事をするようになってきているようだ。これはイギリスでも同じである。かつては、12月25日と言えば、街はひっそりと静まりかえっていたものであるが、最近は家族でレストランに出かけて、クリスマスの食事をする家庭が増えた。

こうして、メインイベントは25日までに終わってしまう国がほとんどであるが、前述の通り、スペインには1月6日という、クリスマスの12日間の最後を飾る大行事が待っている。この日は12月25日よりもずっと大きな祭日と言えよう。この日には、ロスコンとか3博士のケーキとか呼ばれるクリスマスケーキ(リング状に焼いたパンをアンジェリカやレモンピールなどで飾ったもの。かなりシンプル。まずくはないが、おいしいものでもない。要するにあまり味が無い)を食べる。中に小さな人形が入っていて、(わたしの今年の経験では、瀬戸物でできたイエス・キリストの赤ん坊姿であった)これに当たった人はその年1年幸運に恵まれるという言い伝えがある。イギリスには、クリスマスプディングの中に入っている銀貨を見つけたら、幸せで健康で金持ちになれるという言い伝えがあるが、それとよく似ている。(イギリスの市販のクリスマスプディングには銀貨など入っていないので、この言い伝えももうすぐ消え行くことだろう。)

★ 最後に

スペインには、幸運のブドウという習慣がある。大晦日の夜、12時を告げる鐘の音1つ1つに合わせて、12粒のブドウを食べるというものだ。これがなかなか至難の業である。種ありブドウなので、種を除くのに思ったより時間がかかる(西洋人はブドウを皮ごと食べるので、皮をむくという手間はかけない)。今年発見したのは、この幸運のブドウ用ブドウの缶詰である。12粒ずつ小さな缶に詰めて売られている。洗って12個ずつ器に分け入れるという手間が省けるので、パーティーなどには便利だろう。しかし、果たしてこれは種無しブドウであろうか?もしそうなら、スペインの商売魂に感心するところである。

それではみなさまよいお年をお迎えください。来年もよろしく。

トーレビエッハの教会前広場のクリスマスの飾りつけ
クリスマスの飾りつけ1
クリスマスの飾りつけ2
クリスマスの飾りつけ3
クリスマスの飾りつけ4

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