| 第5号 (6月5日発行) |
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★ はじめに 〜 前回の補足 前回の「ペドロランドの犯罪」の号ですが、読者の方から次の2点についてご質問をいただきました。説明が足りなかったと思いますので、補足をさせていただきます。 まず、切り口の入ったタイヤを見て修理工が言った「バンディードス!」ですが、これはバンディードの複数形で、バンディードは辞書を引くと、山賊や強盗一味などと出ているようです。でも、この地では悪人一般、悪い奴を指す言葉として頻繁に使われています。たぶん、セルベッサ(ビール)の次に、外国人が真っ先におぼえるスペイン語ではないでしょうか。 次に、わたしたちがフェア・ディール・フランクに欺き取られた5000ペセタはどの程度の価値のあるものかという点ですが、日本円に換算すると約3300円に相当します。物価の安いスペインですと、二人暮しの3〜4日分の買い物くらいに当たり、ちょっとした金額です。が、フランクのすごいところは、スペインに引っ越したばかりのイギリス人はまずポンドに換算してしまうので、たいした金額だと思わないという点を見抜いていることです。イギリスはスペインより物価が高いので、20ポンドではたいしたものは買えないなと思ってしまうのです。 ★ 雨に弱いもの 創刊準備号に書いたが、この地方では雨が少ない。年間日照日340日とも言われる。ところが、地球温暖化のせいか、昨年秋から目立って雨が多くなってきた。(本当は地球温暖化のせいではなくて、うちの夫が引っ越して来たからだということをわたしは知っている。彼は雨男である。)こうなると、それまで雨なんて考慮に入れずに建設されたものの弱点が次第にさらけ出されてくるのだった。 ペドロランドには、毎日パンを売る車がやってくる。昨年うちに遊びに来たイギリスからのお客さんが彼を「バンパンマン」と命名した。「ホワイトバンでやってくるパン売りの男」という意味である。もちろん、パンは英語ではなくてスペイン語。英語ではブレッドである。語呂合わせのために英語にスペイン語を混ぜたわけだ。ホワイトバンマン(白いバンの運転手)というと、イギリスではなんでも屋のイメージがある。よく言えば時代に敏感なアントルプルナー(起業家)、悪く言えば信用のならぬ日和見主義的商売人である。思いつきで商品を変える。だから、商品名も商店名もないただの白の車体である。ちなみに、日本では車の色としてベストセラーである白は、イギリスでは全く人気がない。没個性的、商業的イメージというのがその理由だそうだが、ホワイトバンのイメージが影響しているのかもしれない。 コスタンブランカ生まれのコスタブランカ育ちのわれらがバンパンマンは雨が大嫌いだ。小雨が降ると、この世の終わりのような顔をして、「カタストロフ、カタストロフ(大惨事)」とため息をつきながら空を仰ぐ。土砂降りの日はお金さえ受け取ろうとしない。お代は明日とばかり、予約済みのパンだけ配って風の如く去っていく。去年のある土砂降りの雨の日、バンパンマンは奥さんを連れてやってきた。彼は運転手席に座ったまま。客の相手は雨合羽をつけた奥さんがした。さすがにこれはペドロランドの女性たちの顰蹙を買った。奥さんの抵抗もあったのかもしれない。それ以降奥さんが雨の日に来ることはなくなった。 便配達は黄色いスクーターに乗ってやってくる。雨の日は原則的に配達はない。道路が滑りやすくなっていて危険なので、郵便配達の人の安全を図るための配慮だそうだ。ところが一度だけ、雨の降る中を黄色いスクーターで走っていく郵便配達の男性を見た。命知らずの郵便配達夫である。 大リーグボールは水に弱いと言ったのは星一徹であるが、スペインの道路は雨に弱い。まずどこにも排水溝がない。だから土砂降りになるとあっという間に道路は水浸しになる。あちこちで通行止めになる。それでも、雨が止むと翌日はすっかり乾いてしまうのが不思議だ。あれだけの水はいったいどこに行ってしまうのか。昨年は、土砂降りの後、道路の表面が持ち上がって、道路がでこぼこになるということがあった。舗装材の下に雨が入り込んで舗装材を持ち上げてしまったのだろうか。ところがスペイン人にも学習機能はある。その後舗装材を変えたのか、舗装方法を変えたのか、新しく道路が舗装しなおされてからはこのようなことはなくなった。 一方、イギリスの道路は雨に強い。排水もきちんとしている。(もっともそれ以上に雨が降るので一昨年からよく洪水が起こるのだが。)ところが、イギリスの道路は熱に弱い。ちょっと暑いとすぐに道路の表面が軟らかくなってしまう。オートバイを停めておくと、スタンドが道路にめり込む。その点、スペインの道路は熱には強い。梅雨でも水浸しにならず、夏の暑さに溶けることもない日本の道路には感心するばかりである。 スペインの家も雨を考慮して建てられてはいないようである。イギリスなどでは平らな屋根というのは避けられる。雨がはけ口を見つけるのが難しいからだ。ところがこの辺の家には必ず大きなベランダが付いている。その名もソラリウムと言う。日光浴専用だ。つまり、どの家にも平らな屋根に相当する部分が必ずあるということである。昨年秋の記録的大雨の時には、ペドロランドの多くの家で雨漏りの被害が出た。排水がうまくいかず、一階の天井に水がしみ出してしまったわけである。それ以来、押入れの壁がかびで真っ黒になったり、湿気に悩まされている家もある。その点、イギリスの近代的な家ではすべて湿気を外に逃がす建設的配慮がされている。不動産鑑定時にこれがされていないとわかると、住宅ローンがおりないこともあるくらいだ。 また、昨年の秋には、大雨・洪水の後、海辺に行って庭用テーブルやイスを拾い集める人の姿が見られたという。ペドロランド近辺では開発が進み、固い地盤にはすでに家が立ち並んでしまったため、最近は干上がった河床や谷を埋め立てて家を建てている。ところが、大雨が降れば、水は自然のはけ口を見つける。というわけで、谷の一部を埋め立てて庭にした家では庭用テーブルやらイスやらが鉄砲水で押し流され、海にたどり着いたというわけである。庭くらいならまだいい。ペドロランドのすぐ近くでは、干上がった河床を埋め立ててたくさんの家が建てられている。埋め立てといえば聞こえはいいが、ただ単によそからもってきた土を高く盛り上げて踏み固めただけである。この過程を一部始終見てきたわれわれペドロランド住民は、こんなところに新しい家は決して買わないと心に決めている。実際、ペドロランドの一部は天然の固い地盤の上には立っていない。これらの家ではすでに地盤沈下が始まっており、壁には大きな亀裂が入っている。一時は取り壊しという説も流れたが、いまだにその気配はない。 地元の気象研究所では今年はさらに雨が多くなることを予想している。早く雨に対応した建築方法を導入しないと、災害が起こるのは目に見えているのだが・・・。 ★ ちょっと関係ないけれど・・・(編集後記) 前回のあとがきでは、ペドロランドは国際村というエピソードをご紹介しましたが、今回はペドロランドを少し離れるとそこにはとてもスペイン的な世界が広がっているというお話です。 夫が15キロほど離れた町に出かけたときのことである。ここはスペイン人の、スペイン人による、スペイン人のための町で、ここにはたぶん外国人住民は一人もいないか、スペイン人に同化することを誇りとする偏屈な外国人くらいしか住んでいないだろうと思われる。ここで彼は銀行に入り、現金引出し機に向かった。 言語オプションがスクリーンに現れる。「1.スペイン語、2.カタルーニャ語、3.バスク語、4.ガリシア語」1のスペイン語は標準語として使われているカスティリヤ語のことだから、すべてスペインの地方語ということになる。「1.スペイン語、2.英語、3.ドイツ語、4.フランス語、5.オランダ語」という選択肢を予想していた夫にはかなりのショックだったらしい。 それから、第3号でスペインには時間指定配達というのがないようだと書いたが、先日うちに電話をかけてきた宅配便会社の人に「何時に?」ときかれた。これはわたしの乏しいスペイン語ボキャブラリーにも含まれている語句であったのだが、あまりにも思いがけない言葉に全く理解できなかった。「明日は正午までだったら家にいる。」というと、「1時?」と聞く。「いや、正午。」その後、「正午」「1時」の押し問答の末、「じゃあ、正午に。」ということで話がまとまった。その翌日、正午を10分過ぎても現れないので、用事があったわたしたちは家を出た。代わりに荷物を受け取ってくれたお隣りのトーシュによると、配達の人が来たのは1時半だったという。やっぱり、スペインには時間指定配達は無い。配達の人が来たい時に来るというのが正解のようである。 |