| 第3号 (5月15日発行) |
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★ 待つわ・・・ スペインに引っ越したばかりの頃、スペインで暮らすということは待つことを意味した。家具の配達に、ストーブ用ガスボンベの配達。一通りのものが揃うまでは、配達を待つことが生活の中心であった。 スペインには時間指定というのがないようである。たとえば、家具の配達を頼むと何日に来ると言う。あるのは「午前の部」(マニャーナ)と「午後の部」(タルデ)のどちらかのみ。午前の部というのは、だいたい午前9時から午後1時半か2時くらいまでを指す。午後の部はシエスタの後、午後4時半もしくは5時から午後8時くらいまでを常識的には意味する。でも、夜10時に家具屋が現れるなんていうこともあるから、油断はできない。この話は、わたしが発行しているもう一つのメールマガジン "Anglo-bites"(イギリスつまみ食い)で書いたことがあるが、その後、同じ家具屋のトラックが9時頃近所の家に停まっているのを見たことがあるので、あまり珍しいことではないようだ。 お隣りのオランダ人夫婦、アリーとトーシュが近くの町までガスの契約に行きたいが場所がわからないと言うので、連れて行ってあげたことがある。ガスの点検係が家まで行って実際に器具を点検する必要があるというのでその予約をすることになった。ガス屋は2日後の午後の部に来ると言う。それに対して、トーシュは「何時?」と聞き返した。おおっ、なんと大胆な質問、と思ってその続きを聞いていると(会話は英語だった)、案の定ガス屋はうーんとうなりながら、その前の予約にどのくらいかかるかわからないし・・・、などとつぶやきながら、紙に「17:30-18:00」と書いた。 トーシュとアリーは満足してガス屋を出て行ったが、すでにスペインで苦い思いを何度もしているわたしは懐疑的であった。翌々日、ガスの点検係が現れたのは午前10時だった。約束はその日の午後の部(より正確には午後5時半と6時の間)である。そしてわたしはまた一つ悟った。要するに、配達する人間が気の向いた時に行く。その時に家の人がいればラッキー。いなければ出直すだけである。 お向かいのヤンとティーニが天井の水漏れを見てもらうために建設会社の社長を家に呼んだ。パコは土建屋のおやじという言葉がぴったりの風貌である。背が高くて貫禄がある。色が黒い。スペイン人だからパンチパーマということはないのだろうが、真っ黒く短い縮れた髪をしている。そのパコが来ると約束した日、ヤンとティーニは一日中外出もせずにひたすら待ったが、とうとうパコは現れなかった。翌日、二人が30分ほど外出した間にパコはやってきた。二人が留守なのを見てパコが去ったのは、彼らが家に戻ってくるわずか10分前であった。これは絶対に陰謀であるとわたしたち住人は思った。買った家に何かしら不満のあるわれわれ住人の間では、パコはすこぶる評判が悪い。きっとどこかにスパイがいて、ヤンとティーニが出かけるのを見計らっていたに違いない。また、その翌日彼らがオランダに帰るということも知っていたのにきまっている。 ガスの配達を待つのもなかなかスリリングであった。ペドロランドにはパイプガスは敷かれていないので、ストーブや調理用のガス器具にはガスボンベを使用する。近くの町にあるガス会社の事務所に取りに行くこともできるが、これは自家用車に危険物を積むことになり違法だそうだ。それに、事務所の近くに駐車スペースを見つけるのも至難の業である。というわけで、ほとんどの場合はひたすら配達を待つことになる。 どうやらペドロランドへのガスの配達は月曜日と水曜日の午後の部らしいということがわかるまでには3ヶ月ほどかかった。その間、幾たび、はらはらどきどきしながらガス屋の到着を待ったことだろう。ガス会社に注文の電話をかける。配達は水曜日になると言う。「午前?午後?」と聞くと、「正午(メディオ・ディア)」と答える。ところが、正午を過ぎても、2時になって午前の部が終わっても、さらに5時になって午後の部が始まってもガス屋は来ない。もしかしたら、わたしの発音が悪くて間違った住所に配達に行っているのではないだろうか、このままストーブ無しで夜を過ごすのはつらい・・・などと心配していると、6時半にガス屋のトラックがやってきた。要するに注文を受ける係の女性は配達係の配送スケジュールなどちっとも把握していなかったのである。道理で「正午」という答えが返ってくるのがやけに速かったわけだ。 ある週の木曜日に注文をすると金曜日の配達になると言われた。その日いくら待てどもガス屋は来ない。あとで近所の人から聞いたところによると、かつては金曜日にもペドロランドへの配達はあったが、現在は金曜日の配達はないのだそうだ。やはり受注係のミスである。月曜日に電話をしたときには、よっぽど「あなたは金曜日と言ったが、金曜日には配達に来なかったではないか。」と文句を言ってやりたかったが、スペイン語の過去形はまだ習っていなかったのであきらめた。ただ「ガスボトル一本下さい。」といういつもの注文フレーズにとどめておいた。わたしのスペイン語のクラスでは、ほとんどのクラスメートのスペイン語を習う動機は、いつの日かスペイン人に思い切り苦情を言ってやりたいということである。事がスムーズに運んでいる間は言葉はいらない。問題が起こって初めて言語が重要になるのである。 スペインで配達を待つ必勝法は篭城の心得と同じである。つまり兵糧攻めに対する防御を完全にすること。午後8時まで待ったのにもかかわらず、おなかが空いたからといって、家中でレストランに出かけてはおしまいである。その直後に家具屋が配達に来るということはよくあることだ。ここで負けては、一日すべてを犠牲にして待った努力が水の泡である。配達を待つときには、常に冷蔵庫を一杯にしておいて、2〜3日は食糧に困らないようにしておこう。 このへんの家具屋では家具パッケージというのを用意しているところが多い。このスタイルで2LDK用などと指定すると、ベッドやシーツから鍋釜・歯ブラシ立てに至るまで必要なものが一気に揃うというわけだ。全てが自分の好みに合うというわけにはなかなかいかないため、永住者にはたいへん評判の悪い制度である。もしもう一度家を買うなら絶対に家具パッケージは利用しないと皆口を揃えて言うが、別荘として家を買う人たちには、やはり便利なしくみだ。なんと言っても、すべてのものが一度の配達で揃うのは魅力である。2週間の休暇にやって来て、そのうちの3日も4日も家具の配達を待つのに費やすのはもったいないものである。 ★ ちょっと関係ないけれど・・・(編集後記) 前回、コスタブランカのイギリス人は保守的思想の持ち主が多いと書いたが、コスタブランカに住むフランス人もまた右寄りであると言えそうだ。 フランスで大統領選挙が行われたが、ジャック・シラクが82パーセントの高得票率で極右の対立候補ジャン・マリー・ルペンに圧勝した。コスタブランカ地方の中心都市・アリカンテでも在留フランス人による投票が行われたが、蓋を開けてみるとシラクの得票率は69パーセントということで、コスタブランカに住むフランス人の30パーセント近くはルペンに投票したわけである。もっとも投票率はとても低く、3800人のフランス人登録住民のうち、わずか1206人が投票所まで足を運んだだけに終わった。 イギリスのマスコミが意図的に選んだのかもしれないが、テレビに現れた、シラク大統領の当選を祝うフランス人は、移民や移民二世と思われる人たちが圧倒的に多かったように思う。コスタブランカでは、生粋フランス人度も高いのかもしれない。 ちなみに、ペドロランドにフランス人住民は一人もいない。コスタブランカに住むあるフランス人によると、天気のいいところはフランス国内にいくらでもあるので、わざわざスペインまで来る必要がないのだそうだ。同じ理由でコスタブランカではイタリア人もあまり見かけない。しかし、北ヨーロッパ人には、フランスやイタリアよりずっと住宅価格も低く、物価も安いスペインはやはり魅力である。 |