不思議のペドロランド

第20号 (2月10日発行)

★ カーニバルの季節

カーニバルがペドロランド近辺で行われるようになったのは、ごく最近のことだと思う。我が家のすぐ近くの通りでプチ・カーニバルが行われたのは今年が初めてにちがいない。先週の金曜日の昼間に、通りの端にある小学校の生徒たちが音楽にあわせて仮装行列をしていたそうだ(金曜日の昼間なんて、大人の多くは仕事で忙しい。わたしは音がするのを耳にしただけで、実際には見なかった)。

近くの町トーレビエッハでは、先週の火曜日にカーニバルの本行列が行われたそうだが、やはり週末のほうが人出が多い。というわけで、土曜日には一般人の参加を含めた仮装行列が計画されていたが、あいにくの雨で途中でお流れになった。ペドロランド近くのバーにも、ずぶぬれのピエロとネコ女と大司教が夜12時を過ぎてから現われた。カーニバルの代わりに、カラオケと踊りを楽しんで行ったようだ。こんなことも去年はなかったように思う。

カーニバル(謝肉祭)は、キリスト教の四旬節に先立つ1週間に行われるお祭りである。ざんげ火曜日が通常その最終日となり、フランス語圏では、この日はマルディ・グラ(太った火曜日)と呼ばれる。アメリカのニューオーリンズが同名のお祭りで有名だ。今年は2月8日がその日に当たった。この翌日の聖灰水曜日から四旬節が始まるが、この期間(復活祭までの日曜日を除く40日間)は、キリストが40日間荒野で断食をして修行をしたことにちなみ、昔は熱心なキリスト教徒は断食をするのが習慣であった。そこで、40日間の断食、または粗食に備えて、四旬節の始まる前日のざんげ火曜日に、思い切り肉を食いだめする習慣ができたわけである。これが、太った火曜日と呼ばれるゆえんだ。

もっとも、現代では断食をする人は少ない。一般の人の間では、かなり宗教心の厚い人が四旬節の間、金曜日には肉を避けて魚を食べる程度である。精進料理というわけだ。この習慣はイギリスにもあって、四旬節であるなしにかかわらず、金曜日はフィッシュ・アンド・チップスを食べる人が多い。フィッシュ・アンド・チップス屋は金曜日はいつも大盛況、わたしがかつて勤めていたロンドンの会社の社員食堂でも、金曜日はフィッシュ・アンド・チップスの日と決まっていた。アメリカ留学中に滞在したことのあるミルウォーキーという町でも、金曜日は魚を食べる人が多かったようである。

カトリック圏では、こうしてご馳走を食べ、仮装をしてお祭り騒ぎをする。一方、プロテスタント圏のイギリスでは、この日はざんげ火曜日別名パンケーキデーと呼ばれ、各家庭でパンケーキを食べたり、地域社会ではパンケーキをフライパンに乗せて軽く上に放り投げながらゴールまで走り、その速さを競い合うパンケーキレースが開かれたりする。このパンケーキというのは、フランスのクレープを思い浮かべていただくとよい(専門家に言わせると、クレープほど牛乳を使わないので、もう少し厚みがあるということだ)。小麦粉に卵と牛乳を加えて溶き、薄くフライパンにのばして焼く。できあがったところに、砂糖とレモン汁をふっていただくというのが伝統的な食べ方だ。

昔のイギリス人は貧乏だったので、来るべき40日間の絶食に備えて、小麦粉で腹を膨らませることしかできなかったのだというのがイギリス人の言い訳であるが、貧乏だったのはカトリック圏の庶民も同じだろう。実際、スペインの伝統的家庭料理を見ると、大量の豆に少量の肉を混ぜたような質素なものが多い。違いは、食にかける情熱だと思う。

フランス料理・イタリア料理など美食で知られるのは、カトリックの国が圧倒的に多い。イギリス料理とかドイツ料理と言っても、あまり食指をそそらないだろう。だいたい、イギリスでは3食のうち1食まともな食事をすれば結構という考えが根強い。そこで、3食温かい食事が出る家庭というのは非常に珍しいわけだ。そこへ行くと、スペイン人は1日に5食取り、そのうち2食は家族が一堂に集まって、主婦の手作りの料理を食べる。食に対するこだわりが違うのである。

こういうわけで、同じざんげ火曜日でも、カトリック教国では、肉を中心にしたご馳走を食べ、お祭り騒ぎをするのに対して、イギリスでは家でパンケーキを焼いて食べ、村ではパンケーキレースをしたりするという違いが生まれるわけである。もっとも、豊かになった現代ではパンケーキでお腹を膨らませるイギリス人家庭はなく、食後のデザートかおやつという形で、普通の食事は別にとる。

カーニバルはカトリックのお祭りと言われるが、ドイツでも同じ時期にカーニバルが催される町があるようだ。お向かいに住むアナが1年で一番楽しみにしているのは、近くの町、デュッセルドルフのカーニバルである。ヘルムートとアナは、1年のうち春と秋の合計6ヶ月ほどをスペインで過ごすが、彼らがスペインに戻ってくるのは毎年デュッセルドルフのカーニバルが終わってからである。デュッセルドルフでも仮装行列が行われるらしいが、ドイツでは何を食べるのかはさだかではない。カトリック教国並みに肉主体のご馳走か(ソーセージや塩漬け肉?それでは普段とあまり変わりがないだろう)、イギリスのように質素にパンケーキか?3月にアナがスペインに戻ってきたら、きいてみよう。

カーニバルは3日間から1週間続くところもあるようだが、1日だけというところでは、やはり週末に行われるところが一番多い。今年は土曜日の5日に行事が集中したようである。ペドロランド近辺ではやらないが、アリカンテなどの町では「いわしの埋葬」(および火葬)という行事があるところもある。これは、カーニバルの終わりから四旬節の始まりに移るのを記念するもので、カーニバルの最後日であるざんげ火曜日か、四旬節の始まりである聖灰水曜日に行われるようだ。張りぼてのいわしを奉った葬列が通りを練り歩き、最後に儀式に則って埋葬あるいは焼かれるそうである。しかし、なぜ「いわし」なのか?「いわしの埋葬」が行われるのは、カーニバルで有名なカナリア諸島のテネリフェや、アリカンテやベニドルムなどの地中海沿岸の町などであることからもわかるように、どうやらもともとは豊漁を祈る儀式だったようである。カーニバル自体、キリスト教到来以前の異教徒の祭りがもとになっているという説もあるくらいだ。

フランコ総統政権下では、カーニバルは禁止されていたと言う。どんちゃん騒ぎは不道徳であるというのと、仮面をかぶったり変装をしたりした輩が祭りを口実に通りをうろうろしていたのでは物騒きわまりないというのがその理由らしい。フランコ時代の記憶が薄れるとともに、カーニバルも復活しつつあるということである。今年からペドロランド近辺でもカーニバルが行われるようになったのも、その風潮の表れにちがいない。

今年の復活祭(英語ではイースター、スペイン語ではセマーナ・サンタ(聖週間))は3月27日の日曜日を中心とする、比較的早いほうである。復活祭の日取りは「3月21日以後の最初の満月に次ぐ日曜日」という定義に則って決まるので、毎年変わるわけだ。この週にはペドロランド近辺にもマドリードを中心とした他の地方に住むスペイン人たちが休暇を過ごすために押し寄せてくる。春とツーリストシーズンの訪れというわけだ。2年前にはキリスト教徒とムーア人の祭りが始まり、今年は小さいながらも、カーニバルも始まったペドロランドである。聖週間の行列もそのうちに見られるようになるかもしれない。

★ ちょっと関係ないけれど・・・

世の中で流行(はやり)のブログというものを始めてみました。といっても、日記と言う程度で、始めたばかりなのでまだ記事も少ないですが、お時間があったらのぞいてみてください。

http://blog.goo.ne.jp/michie-flamingo/

タイトルは「ペドロランド日記」です。メールマガジンのほうはまとめるのに時間がかかって、どうしても間が空いてしまうのですが、日記ならもっと気軽にこまめに書けるかなと思っています。タイムリーな話題を扱っていく予定ですので、よろしくお付き合いください。

わたしの焼いたパンケーキの写真もあります(あまり写真写りがよくないけど)。


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