不思議のペドロランド

第19号 (11月11日発行)

★ ノーフリルズ・エアライン

わたしがイギリスとスペインを頻繁に往復できるようになった理由にはイギリスにトレーラーハウスを買ったこともあるが、航空運賃が安くなったことも無視できない。特に、ペドロランドから車で20分ほどのところにあるムルシア空港発着の低価格航空会社の便がこの数年で急激に増えた。ムルシア空港はもともとは軍用飛行場であっただけあって、実に小さな空港である。小さな土産物店が3つ、旅行代理店が2社ほど入っているだけで、バーは一般ロビーに1つ、搭乗者ロビーに1つしかない。

ペドロランド近辺の住宅建設ブームを受けて、ホテルを含んだパッケージツアーよりは、航空券だけを買う人々が増えてきたことにもよるのだろう。購入した別荘に年間数回足しげく通う人々、あるいはスペインに移住した家族・親戚を休暇を兼ねて訪ねる人々である。こうした需要を受けて、低価格航空会社は大人気だ。このような航空会社を総称して、ノーフリルズ・エアライン(no-frills airlines)とイギリスでは呼ぶ。なんでも省略してしまう日本人に呼ばせたら、ノーフリとかになってしまうのだろう。つまり、お飾りのサービスなし、客をA地点からB地点に運ぶことだけに徹底した航空会社というわけである。

どのくらい徹底しているかと言うと、機内食のサービスがない。金を払えば、飲み物とサンドイッチ程度の軽食を買うことができる。が、わたしの経験からすると、どうもノーフリルズ・エアラインの筆頭・R航空では、その日最初にイギリスを出発するときに1度だけ食べ物を積み込み、その後は全く補給せずに、1日2往復しているようだ。1日の最後のムルシア=ロンドン・スタンステッド便に乗ると、食べ物はほとんど残っていないことが多い。それでも、飛行時間は長くても2時間半程度であるから、別に食事という暇つぶしがなくても十分やっていける。遅い便でイギリスに帰るときには、サンドイッチを持参することにした(ムルシア空港にはレストランがない)。

さらに、低価格航空会社では航空券の発券をしない。インターネットで予約をした後、その時の画面か航空会社からの確認のメールを印刷するか、予約番号をメモして、それを持って空港でチェックインする。R航空の場合、恐ろしいことに座席の割り当てがない。座席番号の代わりに搭乗番号(早い話が先着順番号である)というのをくれる。これを持って、搭乗口に向かうのだが、そこには格安航空会社のシステムを理解していない人たちがすでに長い行列を作っている。搭乗時間が近づくと、まず、最初に体の不自由な人と子連れの家族が先に飛行機に乗り込む。その後に「搭乗番号1〜60番の方どうぞ」という案内とともに、あっという間にまた別の行列ができる。こうして搭乗口前は混乱に陥る。

搭乗口の前には出国審査がある。昨年の12月にイギリスに帰ったとき、わたしの日本国パスポートには期限を5日過ぎたビザ(居住許可申請用)があった。出国審査でごたごたするのを心配していたのだが、案の定、疑問に思った警察官がスペイン語で何か聞いてきた。「オリウエラ警察署に行ったのだが」と英語で長い話を始めようとすると、「おー、オリウエラ!!」と満面の笑みを浮かべて、ポンと出国スタンプを押してくれた。わたしの後ろには100人以上が並んでいたのである。出国審査の警察官はただ1人。その後、今年4月にムルシア空港に行ったときには、出国審査は搭乗ロビーに入る手前の場所に移されていた。

こうして、無事出国審査を通過し、搭乗券の半券をもぎ取ってもらうと、飛行機のタラップに向かってダッシュする。が、ヨーロッパで走っているのは、ひったくりくらいのものなので、走るわけにはいかない。競歩くらいの速度で飛行機に向かうが、心は時速200キロである。機内に入り、隣り同士の席2人分を確保すると、やっとリラックスができる。

これではあまりにも優雅でない。次はノーフリルズを辞めて、洗練された旅をするぞといつも思うのだが、その安さについ決心もゆるんでしまうのだった。どのくらい安いかと言うと、昨年12月にイギリスに行ったときの航空運賃は、片道14ユーロ88セント(現在の為替レートで2千円ちょっと)であった。

いくら席を割り当てず、コストを低く抑えているからとはいえ、この安さでいったい利益が出るのだろうか、といぶかる向きもあるだろう。実はしっかり利益を得ている部分がある。それは、荷物の超過料金である。無料受託荷物の重量は15キロまでとされており、これを1キロでも超過すると、1キロ当たり7ユーロ(約950円)の割合で、容赦なく金を取られる。これを 知らない乗客がチェックインカウンターの一番端の超過重量料金支払いの窓口に長い列を成していることがよくある。たまに見られるのが、ここでスーツケースを広げて荷造りのやり直しをしている人たち。受託荷物の重量は15キロまでだが、実は機内持ち込み手荷物は10キロまでとなっている。そこで、できるだけの荷物を手荷物用のバッグに詰め込むわけである。手荷物用バッグには一応の大きさの制限があるが、ほとんどチェックはされないし、重さを計られることもない(受託荷物も機内持ち込み手荷物も飛行機に積み込む荷物の総重量としては変わらないだろうに)。

以上はR航空の例であるが、同社では将来的にはチェックイン手続きをなくす方向で計画を進めているということである。徹底したコスト削減ぶりだ。乗客は搭乗券をインターネットでダウンロードし、自分で印刷して空港に持っていく。それを持って、指定された搭乗口にまっすぐに向かうわけだ。チェックイン廃止には受託荷物を一切受け付けないことが前提になっている。機内持ち込み手荷物だけだ。R航空いわく、洋服などは目的地で買えばいいのだそうだ。真夏の国に行って、マーケットで安い半袖シャツとショートパンツでも買うというのが可能なら、それでもいいかもしれない。しかし、帰るときには買った洋服を捨てて来いというというのだろうか。空港前に古着屋が並ぶことになりそうだ。

R航空の拠点であるアイルランド出身のコメディアンが「R航空は次にはコスト削減のため、操縦士をなくすだろう」と先日漫才で言っていたが、冗談ではないかもしれないと思ったのはわたしだけではあるまい。

安さのR航空か、サービスの某大手航空会社かと悩やんでいたわたしたちにうれしい知らせがあった。EUジェットのムルシア=マンストン線運行開始である。マンストンは別名ケント国際空港とも呼ばれる。偉そうな名前だが、これもムルシア空港同様、滑走路が1つだけの小さな空港である。ロンドン・スタンステッド空港よりトレーラーハウスに近い。航空運賃のほうは、R航空にはかなわないが、片道28ユーロ(約3,800円)だからやっぱり安い。しかも、インターネットで座席の予約ができるのだ!!椅子とりゲームよ、さようなら、である。

この便は今年の9月に始まったばかりで、夏にイギリスに滞在していたときに、地元のラジオ局でEUジェットのスチュワーデスにインタビューをしていた。彼女は自慢げに「3週間もの訓練があった」と言っていたが、「スチュワーデス物語」の熱心な視聴者だったわたしは、堀ちえみは絶対にもっと長い期間訓練を受けていたと確信している。外国通貨換算の練習だけで最低1週間はかかっていたはずだ。大勢の人の命を預かるスチュワーデスが、たった3週間の訓練だけで飛んでいるのかと思うと少しこわい気がする。そこが、トイレの中で5分間で着物に着替える練習をする親方日の丸航空会社のスチュワーデスとノーフリルズ・エアラインのスチュワーデスとの違いかもしれない。

★ ちょっと関係ないけれど・・・

公共の場の室内での喫煙禁止がスコットランドの議会で可決した。イギリスにあまりなじみのない方のために説明しておくと、スコットランドはブリテン島(イギリス本土)の北部に位置し、独立した議会と独立した法律を持っている。この法律が2006年の春に施行されると、スコットランドのパブやレストランではタバコは吸えないことになる。すでに、お隣りの国、アイルランド共和国では、今年の3月30日からパブを含む仕事場での室内の喫煙が禁止となっている。ここでタバコをすっていると、パブの経営者もしくは雇い主に罰金が課されるわけだ。つまり、アイルランドの禁煙法は働く人の健康を守ることが目的となっている。スコットランドの場合には、喫煙者にも罰金が課される。

法の抜け穴を見つける人はどこにでもいるようで、アイルランドでは、窓の一部に穴を開け、タバコを吸いたい人はそこから頭を出して吸うという案を考え出して実行に移したパブの経営者もいるそうだ。いっそ、外に出て吸ったほうが早いと思うのだが。また、スコットランドの禁煙法は、公共の場とは言っても、ホテルの部屋、刑務所、老人ホーム、精神病院には適用されないそうである。

イギリスの喫煙者にますます時代は厳しくなってきている。タバコには高い率の税金が課されており(喫煙に起因する病気を治療するために費やされる巨額の医療費を負担するためというのがその口実である)、その値段は20本入り1箱平均4ポンド50ペンス(約890円)だそうだ(わたしはタバコを吸わないので、あまり詳しくない)。ここスペインでは、その3分の1以下の値段である。そこで、休暇でスペインに来た折にごっそりタバコを買い込んで行く人も少なくない(わたしも、イギリスに帰るときにはタバコを土産に持っていく)。たまに、あるノーフリルズ・エアラインで、イングランド中央部=ムルシア線が片道1ポンド(198円)というプロモーションをしたりすると、わざわざタバコの買出しのためにスペインまでやって来るイギリス人もいる。往復2ポンドなら、タバコ1箱買っただけでも、節約分で元が取れるわけである。

そのスペインでは、禁煙席のあるレストランはまったく見かけない。スペインでは当分喫煙者の天国が続きそうだ。


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