不思議のペドロランド

第16号 (8月5日発行)

★ 同一ではない単一通貨ユーロの話(1)

スペインにユーロが導入されてからすでに2年7ヶ月が経つ。わたしがスペインに引っ越したのが2001年の2月であるから、ちょうどペセタに慣れた頃にユーロに切り替わったわけである。ユーロ導入後最初の1年間は、レシートや店内の価格表示および新聞の折込広告など、すべての価格はユーロとペセタとの二本立て表示が義務付けられていた。消費者がユーロ導入以前との価格比較を簡単にできるようにという配慮であり、便乗値上げを防ぐための方策であった。ところが、ユーロに切り替わって2年7ヶ月が経った今でも、いまだにペセタ表示が見られる。スーパーのレジなどは切り替えに金がかかるからなのだろうが、いまだにペセタでないとピンとこないお年寄りがスペインにはたくさんいるのだそうだ。

この最初の1年間には、スーパーなどに行くと、ペセタで支払うとユーロで釣りが来るという具合で徐々に新通貨への移行が行われた。もちろん、すべてのペセタを銀行へ持って行ってユーロに交換してもらうということも可能であるが、実際には銀行もユーロ不足に陥っていたようである。1日お一人様何ペセタまでという枠を設けていた。銀行で口座から現金をおろし、ユーロを手に入れるというときにも同様である。スーパーでも当初ユーロが不足していて、ペセタで支払ってもユーロがないということで、ペセタで釣りが来ることもあった。こうなると、さらに細かいペセタの硬貨が手元に残ってしまうわけで、年末までにきれいにペセタを使い切ろうと思っていたわたしには思わぬ打撃であった。ペセタが姿を消した後、引き出しから25ペセタ硬貨(これは海外では珍しいと言われる、5円玉のような穴あき硬貨であった)がひょっこり出てきたりして、結局わたしの手元には合計100ペセタちょっとの硬貨が今でも残っている。

このいまだに手元に残っている硬貨の1つが1ペセタ硬貨である。あまり珍しいのでとっておいたのだが、いざ使おうと思っても使う機会がなく(だから珍しいわけだ)、とうとう手元に残ってしまったというわけだ。1ペセタはだいたい70銭くらいの価値があった。つまり、1円よりも軽視されていたわけである。支払い合計の一桁台が1ペセタになるとこれは切り捨てされた。釣りが3ペセタになるような場合には、4ペセタに切り上げられて釣りが来る。というわけで、1ペセタはほとんど存在しないも同様であった。お釣りが1ペセタでも余分に来るのはいいのだが、わたしが嫌いだったのは、一見安そうに見える看板である。日本では、百円均一ショップの上を行く99円ショップというのが最近台頭してきたそうだが、99という数字に心理的なトリックがある。これは世界共通である。ところが、スペインではこれは詐欺以外のなにものでもない。スペインの小さな店では3999ペセタという値札に4000ペセタを支払っても、1ペセタの釣りが来ない。最初からつり銭を渡す気がないのなら、なぜ4000ペセタという値札を掲げないのか。これは完全に「看板に偽りあり」である。1ペセタを笑うものは1ペセタに泣くぞと心の中で捨てゼリフを吐きながら、納得のいかない気持ちで店を出ることがよくあった。

スペインをはじめとするEU加盟国のうち11ヶ国でユーロが導入されたが、車でイギリスに帰るのがとても便利になった。異なった通貨を準備する必要がない。万が一間違ってベルギーに入り込んでも、同じ硬貨でコーヒーを買うことができる。また、各国間の価格比較が容易になった。フランス国境直前、スペイン最後の高速道路サービスエリアでは、いつも長い行列が見られる。フランスに入る前に、スペインの安いガソリンで満タンにしようという人々である。

単一通貨とはいうが、まったく同じでわけはない。まずはその名称である。ローマ字読みのスペイン語ではたぶんエウロと発音されるべきなのだろうが、ペドロランド近辺ではウーロという発音もよく聞かれる。国際化の影響を受けているのかもしれない。ドイツ人はオイロと発音している(ように聞こえる)。最初は何のことを言っているのか全然わからなかった。英語ではユーロである。

さらにその下の単位になると、これはもう国によってまったく別のものだ。公式にはユーロセントと硬貨に刻まれているものの、スペインでは100分の1ユーロをセンティモと呼ぶ。フランスではサンティーム、英語圏のアイルランドではセントと呼ばれる。

紙幣は10・20・50・100・200・500ユーロの6種類があり、デザインはどこの国もすべて同じである。200ユーロ札と500ユーロ札は受け取りを拒否するところが多いのでご注意を。それもそのはず、200ユーロは約2万7千円、500ユーロとなると約6万7千円に相当する。こんな大金の偽札でもつかまされたらたいへんな損害である。どうしてこんな非現実的な紙幣を作ることにしたのか理解に苦しむ。まるで偽札を作ってくださいと言わんばかりではないか。もっとも、犯罪者のほうはもっと現実的なので、一番偽札が多いのは流通度の高い20ユーロ札と50ユーロ札だそうである。みなさんも、万が一銀行の両替で200ユーロ札や500ユーロ札を渡されたら、50ユーロ札以下に交換してもらうようにしましょう。

偽札といえば、イギリスではしょっちゅう紙幣のデザインが変わっている。女王の肖像をもっと現在の実像に近いものに(つまり、もう少しふっくらさせてしわを入れてということだが)ということで数年前にすべての紙幣が一新されたが、その後も短い周期で紙幣のデザインが少しずつ変わっている。裏にスティーブンソンの肖像のついた5ポンド札をお持ちの皆様、これはもう使えません。銀行に持っていって取り替えてもらいましょう。裏にディッケンズの肖像のついた10ポンド札はまだ使えるそうですが、早めに使ってしまったほうが無難です。

在英日本人の友人が数年前に10年ぶりに日本に帰った。その直後、為替のレートがいいと言うので、かなりのポンドを日本円に替えた。彼女が次に日本に帰るのはまた10年後だろうか。たぶん日本だったら、そのときも同じ紙幣を使っているのだろう。イギリスではこうはいかない。

さて、この話は長くなりそうなので、今回はここまでにする。ネタを出し惜しみしているわけではない。たまにどーんと長いマガジンを発行されるよりは、読みやすい量に何回かに分けて発行してもらったほうがよいという読者の方からのリクエストによるものである。

★ 最後に

現在イギリスに来ている。今年も7月と8月をイギリスで過ごすことにした。ペドロランドの夏の喧騒を避けるためである。最初のうちは、気温も低くて避暑を楽しんでいたが、ここに来て夏らしい天気が続いている。昨年の教訓にのっとり、今年は到着早々に扇風機を買い込んだのに、使う機会はないのだろうかと思っていた矢先であった。しかし、スペインと違って、どんなに昼間が暑くても夜は涼しくなるのが、イギリスの夏のいいところである。

明日から来週の火曜日にかけてオランダに行く。トレーラーハウスのあるケント県のヨールディングからフェリーの港のあるケント県のラムズゲートまで車で1時間ちょっと。そこからベルギーのオステンデまでは船で4時間である。そこからアムステルダムまでは車で3時間弱だ(と思う)。今回のオランダ旅行は、ペドロランドで隣に住むアリーとトーシュを訪ねるのが目的だ。彼らの家はアムステルダムの北にある。5日間の滞在中には、ペドロランドで向かいに住むヤンとティーニの家を訪ねる機会もあるかもしれない。6月にペドロランドにやってきたトーシュとアリーの友人、エルザとベルトに再会するのも楽しみである。

このマガジンでも前に書いたことがあるが、オランダ人はとてもリラックスしていて、人生を楽しむすべをよく知っている。今を楽しみ、つまらないことや嫌なことは気にしない。もっとも、これはペドロランドの休暇を過ごしに来るオランダ人の共通点なのかもしれない。今回のオランダ旅行は日常生活のオランダ人を見られるいい機会と思っている。やっぱり日常生活のストレスにいらいらしているオランダ人もいるのだろう。また、アリーとトーシュと一緒に過ごすことで、オランダ人のオランダを見ることができるのも楽しみだ。

次号はオランダから帰ってきた後に発行の予定である。では、次号でお会いしましょう。


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