不思議のペドロランド

第11号 (8月22日発行)

★ 思いつくままに

どうもご無沙汰いたしました。わたしのもう1つのメールマガジン、"Anglo-bites"(イギリスつまみ食い)をお読みの方なら、すでにご存知であろうが、6ヶ月間発行がないと、配信元のまぐまぐから廃刊の警告が来る。ついにこのメールマガジンにも廃刊警告が来てしまった。というわけで、なんとか期限までに発行しようということで、今回の発行となった。あたためていた話題はいくつかあるのだが、今回はそのいずれでもなく、 思いつくままに書くことにする。もともと、このメルマガの宣伝文句は「ペドロランドの出来事を気ままに綴って行きます」ということなのだが、実はそれほど気ままに書いているわけでもない。一応、テーマを決めて、わたしなりに構成を考えている。ところが、今回は時間が無いので、本当に思いつくままに書くことにする。(次回はもうちょっと時間をかけてちゃんと書きます。)

今、イギリスに来ている。ケント県のヨールディングという田舎の村のキャラバン場にモーバイルホーム(日本ではトレーラーハウスと言うらしい)を買った。今回は2回目の滞在で、ペドロランドの暑さと混雑を避けて、7〜8月の2ヶ月を過ごすことにした。ところが、今年は夏の当たり年で天気はいいし、熱波の到来で観測史上最高の38.1度を記録したほどの暑さである。

こうなると、初めから夏は暑いものとわかっているスペインのほうがずっと暮らしやすい。暑さが耐えがたくなれば、どぶんと飛び込む共同プールは目と鼻の先にあるし、海辺も近い。家には扇風機もある。そもそも、イギリスに住んだ10年間扇風機が必要と思ったことすら一度もなかったので、イギリスでは扇風機は持っていなかった。今回もスペインから扇風機を持って来ようなどとは思いも及ばなかった。イギリスに到着してすぐ、7月の初めに大量の扇風機が店に並んでいるのを見かけたのだが、イギリスの暑さは続いても3日ほどだから扇風機無しでも生きていけると思って見向きもしなかった。ところが、暑さが1週間も続いて気温が35度近くなると、さすがに扇風機の購入を考え始めた。が、時すでに遅く、どこも店頭には「扇風機・プール・エアコン売り切れ」の看板が掲げられていたのである。

エアコンと言っても、室外機付きの本格的エアコンはイギリスではあまり見かけられない。ポータブルタイプの比較的安いものが主流である。冬はセントラルヒーティングがあるので、エアコンはもっぱら冷房用だが、今年の異例の暑さを除けば冷房の必要など1年に数日あるかないかである。そこで、高価な室外機付きの固定型エアコンは、イギリスではあまり人気が無いのだろう。ペドロランドのエアコン普及率は30パーセントくらいだと思われる。所有者には圧倒的にドイツ人が多い。ドイツ人は金持ちだからという説もあるが、それだけでもないと思う。お隣りのオランダ人、アリーとトーシュも金は持っているが、エアコンはからだに悪いと言って、天井用扇風機しか持っていない。ペドロランドで1年を通して暮らすイギリス人定住者たちの中にも、エアコンを持っている人はゼロである。ドイツ人がエアコン好きなのは、徹底的に快適さを追求する性格からではないだろうかと思う。ちょとでも不快なのは我慢ができないのだろう。お向かいのドイツ人、ヘルムートの家は考えられる限りの装置を備えている。2LDKの家に対して3つのエアコン(もちろん室外機付き)に、日よけのキャノピー・ハエ防止用の網戸などなど。最近、庭のヤシの木を下から照らす緑色の照明も取り付けた。

現在滞在しているイギリスのキャラバン場には、80近くのトレーラーハウスと20軒近くのログキャビン(丸太でできた家)があるが、たぶん50〜60パーセントくらいが1年を通してここに住む定住者と思われる(法律的には許されていないのであるが)。それ以外の人たちはほかに住む家を持っており、ここには週末などたまにやってくる。そんなわけで、ここは100パーセントイギリス人ということを除けば、ペドロランドとよく似た環境にあることになる。常に住民が入れ替わっているわけだ。出会いと別れが毎日繰り返されている、人生の縮図のような場所である。もっとも、ペドロランドと比べて本宅との距離がずっと近いため、ここでは数日間隔で人々が行ったり来たりしている。ペドロランドほどのドラマはない。

さて、そのイギリスで感動したのが、食べ物のおいしさだ。特に素の食材のおいしさである。果物がおいしい。ペドロランド近辺の青果物は安いが、あまり味がない。その点、イギリスの大型スーパーでは、値段は高いものの、世界各地から質のよい、おいしい食物が店頭に並んでいる。地元調達のペドロランド近辺のスーパーとはこのへんが違うのだろう。

ペドロランドはバレンシア州にあるが、20キロも南に行くとそこはお隣りのムルシア州との州境である。このムルシア州は「スペインのケント」と呼ばれているそうである(もっとも、そう呼ぶのはイギリス人だけだろう)。ケントは「イングランドの庭」と呼ばれる。つまり、野菜と特に果物がよくとれる。ペドロランドでは、地元のバレンシア州とお隣りのムルシア州からの野菜と果物が中心だ。これに、季節はずれの定番品(レモンなど)が南半球のラテンアメリカの国から輸入されるという具合で、あまりエキゾチックな食べ物はない。もっとも、イギリスからしてみると、ザクロや生のイチジクなどもエキゾチックな食べ物に入るのかもしれないが。

特にイギリスのジャガイモのおいしさは格別だ。塩を加えてゆでただけでもおいしい。ペドロランドの我が家の隣りに住むトーシュも言っていたが、スペインのスーパーではジャガイモの種類が少ない。イギリス同様、オランダでも、肉にジャガイモと緑黄野菜というのが主な食事のパターンとなっている。そこで、ジャガイモは非常に重要な位置を占めるわけだ。だから、種類も多いし、きちんと名前も表示されている。ペドロランド近辺のスーパーに行くと、ジャガイモには「煮物用」「フライ用」くらいの分類ラベルがついているくらいで、名前がない。これはジャガイモを主食とする北ヨーロッパ人にはたいへん物足りないことだ。

それから、イギリスのスーパーには冷凍食品、電子レンジ食品など簡単に調理のできる(あるいは調理の必要ない)インスタント食品の数が多い。特にソース類の種類が豊富である。肉あるいは魚と好みの野菜を加えて、調理するだけで立派な食事ができあがる。まったくの出来合いではないので栄養面で工夫ができるし、働く女性にはありがたいものだ。スペインのスーパーでこの種の食品が少ないのは、食文化の違いか、それとも専業主婦が多いためだろうか。一家の主婦が1日かけて、大人数の家族が一堂に集まる食事の時間のためにしたくをする、それがスペインの生活のようだ。一方、イギリスは共稼ぎが非常に多く、核家族化が進んでいる。このへんで、スーパーの品揃えも変わってくるのかもしれない。

スペインでは冷凍の肉はほとんど見られないのだが、冷凍の魚は種類が豊富である。その中で特に感心したのは、冷凍のパエリャの具だ。さすが、パエリャ発祥の地、バレンシアである。現在では、パエリャはスペイン全土に家庭料理として広まり、残り物の野菜やチョリソソーセージなどの常備品を使って手軽にできる残飯整理用の食事となっているらしい。日本だと、チャーハンに匹敵するかもしれない。しかし、本場バレンシアでパエリャと言えば、やはり魚介類をふんだんに使ったものを意味するのであろう。この冷凍パエリャの具には、2人分のエビ・貝などパエリャに必要なものがすっかり入っている。解凍して米に混ぜるだけというわけだ。

これで帰る場所がスペイン・イギリス・日本と3箇所になった。それぞれの場所に食べるのを楽しみに帰るものというのができる。かつてよく見た夢が、日本に帰国しているのだが、あと3日でイギリスに帰るというのにまだ15も食べたいものが残っている。残り12食でこれをどうやってこなしたらいいだろうか、というものだった。この話を実家の母にしたらたいへん気の毒がって、日本に帰る前に食べたいものをきいて用意してくれるようになった。

イギリスに帰ったら絶対に食べたいもの。その筆頭はインド料理である。インド料理はいまやイギリス料理の一部となっている。もともと、イギリスで食べられているインドカレーは、インドに滞在したイギリス人がインド生活を懐かしがって考案したものと言われる。今では、イギリスでしか食べられないインド料理というのも少なくない。最近のイギリス人移住ブームを反映して、ペドロランド近辺にもインド料理店が増えた。しかし、イギリスほど数は多くないし、味も劣る。しかも値段はイギリス並みだ。物価全般がイギリスの70パーセントくらいの水準と思われる地域において、イギリス並みの値段というのはとても高く感じられる。

次にイギリスにいる間にせっせと食べておきたいと思うのが、ラム(子羊の肉)チョップ。もっとも高くてそんなに頻繁には食べられない。ペドロランド近辺で手に入るラムチョップは厚さ5ミリくらい。一方、イギリスで売っているラムチョップは1.5センチはあるだろう。ペドロランド近辺でもラムは高い。豚肉は安いし、味もいい。鶏肉はイギリスよりずっと安いが、質は劣ると思う。肉はイギリスに軍配があがり、魚はスペインの勝ちだととわたしは思う。

ペドロランド近辺では、石を投げれば中華料理店に当たる。競争が激しいだけに値段も安い。7品からなる2人前のセット料理が、ワイン1本とコーヒー付きで12ユーロ(約1600円)からある。というわけで、我が家の外食は中華料理がもっぱらである。イギリスにも、香港がかつて植民地であった関係もあって中華料理店は多い。が、昔を知る人に言わせると、かつてほど安くはなくなったそうだ。確かに、中華料理=安いというイメージは全く無い。その代わり、スペインの中華料理と比べて、中華野菜の種類が多いし、味も繊細なような気がする。

ペドロランド近辺では、イギリス料理に困ることはあまりない(でも、本場のステーキアンドキドニープディングはいつでも、イギリスに帰ってくる楽しみの1つだ)。特に、イギリスの習慣である、日曜日の昼間のロースト肉の食事、サンデーランチを出すレストランやカフェが最近増えてきた。向かいのドイツ人夫婦、ヘルムートとアナはドイツから戻ってくると、ソーセージ・ザワークラウト・マッシュポテトという典型的なドイツ料理をご馳走してくれるのだが、2軒隣りのパットがお返しに2人を近くのカフェへイギリス伝統のサンデーランチに招待することにした。メニューを見ると、ロースト肉各種のほかにローストポテト・温野菜・ビストのグレービー(ソース)と書いてある。ビストというのは粉末のインスタントソースの商標名だ。日本で言ったら、そば屋に入ったら品書きに「当店では味の素のほんだしを使用しています」と書いてあったというようなものである(味の素のほんだしがいけないと言っているわけではないが、やっぱり「当店秘伝の自家製だしを使用しています」と言われたほうが興味深いではないか)。もっと驚いたのは、これを見たパットがヘルムートとアナに「この店では、ほかでもないビストのグレービーを使っているのだぞ」と誇らしげに言っていたことである。英語のあまりわからない2人にはこのパットの言葉は理解できなかったようであるが、英語のわかるわたしでもこの精神構造はよく理解できない。わたしもローストディナーを作るときにはビストのグレービーを使うが、決して誇りには思っていない。時間と食べ物に対するこだわりさえあれば、ロースト肉から出た肉汁を使って自家製グレービーを作っているところである。こういう事実を見ると、いくらイギリス料理はおいしくなったと言っても一抹の心配が残るのであるが、パットはどの観点から見てもグルメとは言えないのがせめてもの救いかもしれない。魚介類はだめ、好きなものは毎日でも食べるが、初めて見るものに手を出す気はないという典型的な保守的イギリス人である。イギリスの食文化の向上はほかの人たちに期待することにしよう。

思いつくままに書いたら、食べ物の話になってしまった。ハリー・ポッター仲間のkmyさんからも、スペインの外食事情について書いて下さいと言われていたので、約束を果たすいい機会だったかもしれない。こんなところで、近況報告かたがたの今回は終わりです。

★ ちょっと宣伝

前回わたしのHPをご紹介してくださった、ハリー・ポッターファンによるハリーポッター・ファンのための本の続編が出ました。

『ハリー・ポッター』の秘密の学校3年目
マグル式クイズ&新情報編 ローリングを愛する魔法の会・著

今回は、先にご紹介したkmyさんといっしょに、第2章でホグスミードのパブ「3本の箒」のマダムを務めさせていただいております。イギリスの食べ物・飲み物や食文化に関するおしゃべりのほか、イギリスのパブ事情についても書かせていただきました。イラストですが、わたし自身もあちこちに出没しております(美人に描いて下さいとお願いしたら、本人とは全くわからないイラストになってしまいました)。上述のパットとパットの経営するパブの写真も載っています。書店で見かけられたら、ぜひお手にとってご覧くださいね。

それでは、次号でまたお会いしましょう。今度はもっとまとまりのある文章を書くつもりでおります。


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